―御鱈河岸―

おんたらかし

コント バイクと俺

☆演者 坂道ケツカッチン(空山田修吾・松加下別所)

 

 

時刻は深夜2時、雑木林へと続く細い遊歩道を一台のバイクが駆ける。

それを空山田扮する警察官が止めに入る。

 

空山田「ピピーピピー。そこの君止まりなさい」

松加下「なんすか?」

空山田「君ここね。それで走っちゃダメなんだよ。危ないでしょ」

松加下「こんな時間誰も居ませんよ。あれですか?お巡りさん幽霊を轢くと危ないので走るなとでも言んですか?」

 

びっくりした顔で松加下を見、馬鹿にしたように質問する空山田

 

空山田「あっお兄さんあれだ。そっち系の人?」

松加下「そっちでどっちですか?」

空山田「だからさ、小人が見えたり、妖精が見えたり、メルヘン系の人でしょ?」

 

少し怒った口ぶりで返事をする松加下

松加下「違いますよ」

空山田「じゃ何でこんな時間こんな所に居たの?」

松加下「久しぶりにこいつで一っ走りしたくなって来たんですよ。まぁバイク乗りの性て奴ですよ」

空山田「へーそういうもんなの?ところでどこからどこへ行こうとしているの?そのバイクで」

 

松加下は愛車(ストームハートマーク2と呼んでいる)を愛おしげにさすりながら答えた。

 

松加下「地平線の彼方から、こいつのエンジンが焼け焦げ灰に帰る場所までですよ。その場所の事を俺達は〝青春の残滓〟て呼んでるんですげどね」

 

松加下は愛車を叩き、誇らしげに言った。

空山田「お兄さん、それエンジン付いて無いでしょ。というかさっきは話に乗って上げたけど、それ、自転車でしょ。エンジンとか言ってモーターすら付いて無いただのママチャリでしょ」

 

〝やれやれ〟と言いた気な顔する松加下。少し怒った様に問いかける空山田

 

空山田「で、本当はどこからどこへ行こうとしてるの?」

松加下「堀越2丁目に住んでまして、林向こうのコンビニへ行こうとしているとこですよ」

 

訝し気に松加下を見る空山田

空山田「怪しいな、何でわざわざこんな時間にそんな場所経由してコンビニ行くの?お兄さん何か隠して無い?」

松加下「近所のコンビニには、お気に入りのアイスが売って無いので、遠くのコンビニへ行こうとしているんですよ」

空山田「それなら仕方無いな」

松加下「それよりお巡りさんこそ、こんな場所で何かあったんですか?」

 

少し沈黙しゆっくりと答える空山田

空山田「実はついさっきこの近所で殺しが有ってね。それで巡回しているんだよ」

松加下「へーそう何ですか」

 

松加下を一瞥し笑いながら

 

空山田「まぁお兄さん阿保そうやから、違う思うけど、まだ犯人が捕まっていないから気を付けて下さいね」

松加下「かしこまりました」

 

言いつつ空山田に向かい敬礼をする松加下。

それを見て笑う空山田。

 

空山田「お兄さんやっぱそっち系だわ。まぁ夜道は気を付け下さいね」

 

空山田の注意喚起を最後に別れる二人。

互いが見えなくなり呟く双方。

 

松加下「全くちょろい警官だ」

 

サドルの下の血滴をそっと拭う、自転車の前方に取り付けられたカゴにはトートーバックが置かれていた。その中では新聞紙で何重にも巻かれた包丁から真っ赤に染み出した血液が滴っていた。

松加下「それにしても、何でさっきのお巡りさん一人だけだったんだ?」

 

空山田「阿保な奴で良かったわ」

 

スマホを制服のポケットから出し画像を指で流す。ある画像の場所で止まり拡大する。若い女性の裸の惨殺体が現れた。その画像には死体の隣でアイスを食べている警察官の写真が写っていた。表示されている時刻は午前1時30分。

落日の栄光 同志諸君はいずこに?

私があの動画を上げて以降、SNSのフォロワー数は確実に上昇し続けている。中には少女愛好家らしい者達も居たりし、胸糞悪さで、お気に入りのイルカの抱き枕に何度拳を突いた事だろう。そこで思ったのだが、世間では今のこの私、つまり少女の風体をしている私の見てくれは、そんなに悪いものでは無いらしい。むしろ、一部の男性達にはすこぶる評判が良く、肩まで掛かる長い黒髪も、黒曜石の様な夜色の瞳も、年齢の割に小さな身長も、そして何故だか、女性らしさを欠如させている様な気がする、この小さな胸も。その全てが全て、あいつらの邪な欲望を肥大化させていく要素になるらしかった。そうなると、自身を守ってくれる親衛隊が必要になって来る物である。過去の私の周りには、私という国家に殉じて呉れる愛国心溢れる、若き獅子達が大勢居たが、今現在の私の周りには番犬一匹も居ない。

「私の為の殉教者が必要だ」

「出来る事なら殉教者同志、競い合い高め合って呉れる様なそんな者達が」

ラインの登録者一覧を見ていく、女でも良いが、単純に戦闘力の事を考えていくと男の方が良い。

一人目星を付け連絡してみる。数コールもしないうちに相手は出た。

「水野上先輩どうしたのですか?」

なかなか雄々しい男子の声が電話先から聞えて来た。

「竹林君今大丈夫かな?」

相手は直ぐ様気持ちの良い返事をした。

「勿論大丈夫です。何かあったのですか?」

私は深刻そうにするため、少しためて心底困っているかの様に相手に願った。

「………実は最近自分のサイトを作ったり動画を上げてたりしていたんだけど、変な人達が紛れ込む様になって薄気味悪いの。…竹林君私を守ってくれない?」

「守ります!水野上先輩を守ってみせます」

「ありがとう」

「具体的にはどうしたら良いのですか?」

「そうね。私がラインで連絡したら来て欲しいな」

「どんな時もですか?」

「出来ればそれが一番嬉しいな。無理かな?勿論あんまり無茶な事は言わないつもりよ」

竹林は少し考え、曇りの無い返事をしてみせた。

「分りました。僕に出来る事でしたら喜んで」

「そう。ありがとう。じゃまた何かあったら連絡するね」

「はい」

こちらから通話を終了させる。

竹林は1つ年下だが、空手部で群を抜いての実力者であり、筋骨隆々なその肉体はまさしく若獅子に相応しい物が有る。これで一人は確保出来た。まだだ、まだ全く以て足りぬ。同志をもっと掻き集めねば、ネットは発言するには使えるが、同志を特に、強い意志を持った同志を集めるには、昔ながらの方法で行くしか無いのだろう。

スマホを持って街へ出なければな。