―御鱈河岸―

おんたらかし

左向けばひだまり

毎年この時期になると街はにわかに活気づく。秋口までのまとまった仕事がおちこちにある掲示板に貼りだされるためで、皆が情報収集に余念がなくなるからだ。

仕事ははっきり言って無限大にある。有り体に農作業などの体力仕事、遠方の住み込みだったり、学生の本分を考えると最適である内職から先生方の助手、コックだって、サーカス団員だって思いつく限りの選択肢が掲げられる。

僕は学生だけれども、たとえば秋口まで休学しても誰も文句は言わない。実際、夏の間中鉱山に住み込むことで得られる単位もあるし、もちろん座学に励んで仕事をしない自由だってある。

自由というと語弊があるな。当然だけれど、誰もがすべての選択肢を持つわけではない。それにしたって、ほとんどの人にとって働くことが苦痛ではないことはたしかだ。この活気を見ればわかる。町長の息子のDDだって、一等惚けている元船乗りのじいさんだって足が不自由なのに街を這いずり回っている。

 

「ねえ、聞いてる?」ルームメイトのエリセがムッとして言った。

僕はエリセの方をじっと見たまま、まだ頭の中で独りごちる――中等部の僕たちは、夏の仕事をしくじるわけにはいかない。何をしたっていいとは言っても、闇雲に手を出して泣きを見るのもまた自分なのだから。

エリセの左手は、他の四肢と比べると蜂蜜混じりのミルクのような色をしている。元来色白な彼だから、そこだけポッと火が入ったように赤く見える。昨年、エリセは鉱山に働きにいっていた。「オパールの研磨を夏中担当していたんだ」色の変わった左手をさすりながら、エリセは誇らしそうに言った。

僕たちの体は仕事に干渉されやすい。一夏の仕事が身体的な成長に深く関わってくる。だから、職業を選ぶことはとても重要で、後戻りが出来ないからこそ僕たちはこの時期に街を出歩き素敵な見目の人物に声をかける。

 

「ねえってば!」エリセが僕の水槽を蹴っ飛ばす。「言葉を忘れたわけではないんだろ?」

僕は水面に顔をだして、彼の顔をじっと見つめている。唇をならして抗議する為に。