最期のオタク
とどのつまりオタクは今や絶滅危惧種です。
平成31年に施行された、不快因子排除法により街からエロ本という物が消え、その次に少年漫画の紙面から、少しでも性的描写だと捉えられてしまった絵が消えた。だけど、熱意ある漫画家達の中には、ネットの匿名の海の中へ潜り細々と己の熱い情熱を吐き出した。
そんな中でもこの国の二次元趣味愛好者達はしぶとかったようで。
「くっふーー 瑠璃島たん超萌~。否、萌絶死なり~」
頭にバンダナ、手には黒の指ぬき手袋をした太った若者は、スマホに映る裸の少女の萌絵を見て顔を紅潮させ叫ぶ。すかさず横の男は。
「ハバネロ氏、萌絶死とはこれまた死語でござるな」
この男も、先程の男と同じ様な恰好をしている。
「スカンジナビア逆子氏、これを見たら貴殿も萌絶死なりよ」
「おお。これはこれはかたじけない、まさしく萌絶死」
二人の若者はスマホの画面を食い入る様に見る。ハバネロ氏と呼ばれた男は画面をタップし、次々と裸の少女の絵を展開していく。
「いやはやここまでの物は、なかなかお目に掛かれないでござるな」
「漏れもこの作者の薄い本を集めていたのだが、一昨年作者が例の法で処罰されて以来、新刊を拝めていないのが現状でござる」
「ハバネロ氏、やはりこの作者も例の法で消されたのだろうか?」
「スカンジナビア逆子氏、声が大きい。このご時世どこに環境局の連中が聞き耳を立てているものか…」
背後で僅かに物音がする、勿論2人は気づいていない。
「あの壁サークル、炎天下今様の熱王アラハバキ様の撲殺体が見つかったらしいが、これで萌絵を描ける勇者が居なくなってしまった」
2人の男は唇を噛み悔しさで、手が震えスマホの画面に涙が落ちる。
男は激昂し壁を叩く。
「どうして、あんな法が出来ちまったんだよ!」
「スカンジナビア逆子氏、それ以上は言ってはだ…」
「へっ!?」
スカンジナビア逆子と呼ばれた男の腹にマグロ包丁が生える。
瞬時に抜き取られ、男は崩れ落ち腹に紅い華を咲かす。
抜き取った刃の血を紙で拭い、標的に向け構える。
男は逃げだそうとし、周囲のゴミ箱を刃を持った男へ目掛けて投げるが、容易く躱され反対に正面から斬りつけられる。
「痛いいいいいい」
左肩から右脇腹まで斜めに切られ、禍々しい刀傷ができる。
口から血を飛ばしながら斬られた男は必死の形相で叫ぶ。
「萌は偉大なりー萌は不滅なりー萌は武士道なりぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」
血眼を見開ききって男は絶命した。
駆除を終えた男はスマホでどこかへ連絡し、その場を後にした。
10分後、市の清掃課の連中が男達の斬殺体を片付けに来た。
「不快因子排除法によって、この街もまた少し綺麗になりますね」