落日の栄光
彼が見た最後の映像は血色の景色であり。その中では最愛の人が銃弾により今死に絶え様としており、その後続く最後の音声は施錠をしたドアを部下達がけたたましく叩き絶叫している和音であった。
「何故分からない!」
それだけ言うと彼も彼女の後を追うように永遠の眠りについた。
〝運命を再び廻せ〟
どこか神秘的な声がする、この様な声が出せれる者が居たらきっとそれはオーディンくらいのものであろうなと彼は思った。
〝人間にしては存外に面白い、そんな貴様だから次も人間で良いだろう。それともネズミの方が良いか?〟
鼠だと、とんでもない、あんな矮小な生物唾棄すべきだ。
〝まぁ良い。次はどんな劇を観せてくれるのか、喜劇か?それとも悲劇か?〟
言いたい事を言ってくれる、此方も何か言わねばな。
「貴様はどちらが好みかな?」
〝勿論より面白い方だ〟
「承った」
会話は終わった。そして、
私は目覚めた。不思議な事に目覚めた。覚醒したのだ。
手でこめかみを触ってみる、そこにはあるはずの銃痕が無く、鼻の下の特徴的なチャップリン髭も無くなっていた。
その変わり無いはずの物が有った。
肩まで掛かる長くて黒い髪と、胸元に小さく実った双丘である。
「悪夢だ、女になっている。まだ醒めていないに違いない」
当ても無く周囲を見渡すと、少女が見えた。
「お嬢さんここは何処ですかな?」
不思議な事に私が喋ると同時にその少女も喋って来た。それも私の声で、妙に現実的な夢も有るものだ。しかし、次の瞬間絶望的な事実が判明した。目を細めて見ると、少女だと思っていた物はその実大きな鏡に映っていた自身であった。
絶望感に苛まれていると、ドアの向こうから成人女性の声がする。
「ゆきえご飯よ。早く食べてしまいなさい」
どうやら私は、少女で有りゆきえと呼ばれているらしい。
辺りを見渡しこの少女の情報が分かる物を探す。
衣装棚に収められた学生服と、机の周囲に鞄、そして机上には良く分からない桜色の長方形の薄い板が置かれて有った。
「全く分からないじゃ無いか」
独りごちてみたが、そろそろ返事をしないと不味いので。
「少しお待ち下さい」
発した瞬間異様な事に気が付く、〝私の声では無い〟以前録音機で自分の声を聴いた事が有るが、こんな声はしていなかったはずだ。
こんな声ではビアホールの観客を歓声で湧かせる事も出来やしないではないか!
しかし、そもそもこんな少女の為りをしていたのでは、酒場には行けるはずも無い。頭を振るい階段を降りて行く。
〝オーディンよ、私に何をせよと言うのだ〟
そう言うと彼は、鼻と口の間に有ったはずの髭をなぞった。