―御鱈河岸―

おんたらかし

超地球的存在 ~大手町六郎、神はじめました~

気が付くと俺はコンビニでビールをカゴに入れている所だった。

店内放送では、数年前流行ったお笑い芸人が何か喋っている。いつもの癖でスマホを見る。時間は10時30分だ。

頭の中で違和感の周りをもやもやとしモノが駈けずり廻っている。

アイスコーナーでは、この時季限定のアイスバーが残り1つとなっている、物凄く食べたいが何故が買う気が起きない。その時暑さで苛立っている中年サラリーマンがやって来た。

「あっちーなチクショー。こうも暑くちゃ企業廻りも止めだ止め」

手を団扇の様にして、顔を扇いでいる。

「おっ、このアイス残ってんな」

一度こちらを見る。

「兄ちゃん。これいんのかい?」

「あっ良いすよ」

「そうかい、悪りねぇ」

サラリーマンは、そう言うとレジへ向かった。

その瞬間頭の中のもやが晴れ、〝アンセムアンセム〟言ってそうなFM局のラジオDJばりの良い声が聞えて来た。

「良い判断だ」

周りは誰も居ず、店内放送の声は芸人のままだ。

どうやら頭の中から聞えて来たことになる。

そこでやっと思い出した。先程までの〝神様=超地球的存在=社史編纂室室長〟とのやり取りを。

つまり、今のは俺に身に付いた何かしらの能力だということになる。

確か、期間地域能力限定の神様が当たったとかだ。

他にどんな能力がもたらされたのか気になるので、会計を済ませ店を出る事にした。

 

前回と同じ公園のベンチに座る。時刻は11時少し前だ。

もう一度スマホを見る、日時は俺が死んだ日で間違いない、あれが起きた時間は正確には分からないが、おおよそ、12時ぐらいのはず。時間潰しと実益を兼ねて貰った小冊子を読む事にしよう。その前に。

「ぷふぁぁー平日の昼間っから呑むビールは最高だな」

「良い判断だ」

ラジオDJばりの良い声が響く。

呑み終えた缶を捨て、小冊子に目をやる。

 

〝地球のネズミ、イルカ、その他動物の皆さんこんにちは。先ずはおめでとう。今日から君が限定神だ。いきなりで申し訳無いが、能力の説明をさせて貰う。行使出来る能力は大きく分けて三つ有る。一度しか使えない能力と、期間中度々使える能力、そして恒常的に発動している能力だ。大切なので一度しか使えない能力だけ伝えておく、それは地球改変能力、これに当たる力を行使すると限定神の容量を超えてしまうので使うと元の種族に戻る。一応行使する前に、本当に使うかどうか尋ねられるからな。あと、箱舟人達には出来るだけ干渉しないで欲しい、まだ検証中なのでな。それでは良き限定神生活を〟

 

何度か小冊子を読み返すも、これ以上の文章は記載されて無い。

現代のコンシューマーゲームの説明書並みに余り説明してくれてない、続きはウェブでか?小冊子を投げつけたくなる衝動を抑え、時刻を確認する。予定ではもうすぐ、園児が自動車と衝突する時刻になるはずだ。

 

しばらくすると、横断歩道を渡る園児が見えた。

六郎は走り出そうとするが、足元がおぼつかなくなかなか前へ進めない。勿論そのはず、小冊子を読んだ後ビール缶を六本ほど立て続けに開けたのだから。

「下手こいた~。ビールとの今生の別れだと思っちまったばっかりに」

しかし、そんな六郎の思いとは裏腹に園児は無事渡り切り、公園の入り口で待っていた若いお母さんの下へと辿り着く。

園児の可愛らしく元気な声がする。

「ママ~」

「さぁ帰りましょ」

園児は嬉しそうに母親の手を握り、今日の出来事などを話しつつ公園を後にする。

その後信号は青になり、一台の自動車が走り去った。運転席に座っていたのは、コンビニでアイスを譲って上げた中年サラリーマンであった。六郎はそれも見ず、達成感とアルコール摂取で得られる心地良い酩酊感を味わい眠りに就いた。