―御鱈河岸―

おんたらかし

明朝体

湿気だまりに咲いたアザミが家路をいそぐ人を見送っている。
 ちいさな不幸せをほおばった女の自転車が信号機を前にスピードを落としたのを見て、手を伸ばして助けてやりたいがそんなものは持っていないから風に乗って、せめて雨が降りそうなことを教えてやる。女もわかったように背筋を伸ばしたり、手首をまわして赤信号をにらみつけた。
 負けない気持ちが傍目で見てもわかる。息を吐いた拍子に、ひとつ不幸せがクチビルのすき間から顔を出した。女はまだ気づかない。アザミは根っこから立ち上がりたいが、足も力もそんなものはない。
とじたつぼみに羽虫がとまって、ころりと落ちた。悲しもうにも言葉がなかった。花だった。